橋やトンネルのひび割れを点検するのは、人が現地へ足を運ぶ仕事だと思われがちです。ところが、山の中のトンネル工事現場から遠く離れた拠点でも、幅0.2mmのひびを確認できる、という実証が行われました。私も身近な場所で、公園のベンチ周りのひびや、大型トラックが通る道路の傷みが気になります。通信とAIの組み合わせは、現場の「そこにいなければ見られない」を、どこまで変えられるのでしょうか。
1. 核心をひとことで:1,000km先から0.2mmのひびを確認
安藤ハザマ、NTT、1FINITYの3社が、東海北陸自動車道の4車線化に伴う山岳トンネル工事の現場で、次世代通信基盤IOWN APNを使った遠隔施工管理の実証実験を行いました。1,000km離れた拠点を想定して4K映像と音声を伝送し、坑内壁面の幅0.2mmのひび割れを目視で確認できています。さらに、AI画像解析でもひび割れの検出に成功しました。
0.2mmは、壁面の施工管理で確認の対象になる管理基準の一つです。粉塵や湧水、振動がある坑内から、この精度の映像を遠方へ届けられた点が、今回の中心です。
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私は、このニュースの面白さは「遠くから見られる」ことそのものより、見る場所と判断する場所を切り離せる点にあるのではないかと思います。熟練者が現場へ移動する時間がなくなれば、判断できる人の数よりも、判断してもらえる現場の数を増やせるからです。
2. 仕組みと歴史的経緯:現場の通信は何がネックだったか
トンネルの工事現場は、通信にとって条件が厳しい場所です。山の中では電波が届きにくく、粉塵や湧水が機器を傷め、切羽(掘り進めている先端)は日々前へ動きます。そのため、現場の映像や計測データは、現場事務所へ持ち帰ってから確認するやり方が長く続いてきました。
今回の構成では、坑内に光ファイバケーブルを1,100m敷設し、切羽から100m間隔で光伝送装置を6台置いています。無線区間には高速な無線技術のWiGigを使い、遠隔拠点との通信はIOWN APNを模擬した環境で再現しました。装置はIP65規格の収容箱に入れ、粉塵や振動、湧水のある環境で安定して動かしています。
以前、取引先の方から、倉庫やスーパーの陳列棚の在庫を目で確かめるのが大変だと聞いたことがあります。現地へ行かないと確かめられない確認作業は、建設以外の現場にもあるのだと感じました。
通信の品質も具体的に示されました。光区間ではパケットロスがなく、ジッタ(通信遅延のばらつき)は100ナノ秒以下を保ち、長時間の連続稼働も確認されています。
数字だけ見ると「1,000km」の距離が目を引きますが、実際は、この実証で1,000kmの区間を実際に敷設したわけではありません。1,000km離れた拠点との通信環境を模擬して確かめた結果です。それでも、揺らぎの少ない通信が坑内の過酷な環境で動いたことは、実運用への地ならしとして意味があると私はみています。
3. 従来との比較:目視巡回・一般的な現場回線・IOWN APN
点検の進め方を、現場で使える手段の違いとして整理します。
| 項目 | 人が現地で確認 | 一般的な現場回線 | 今回の構成(IOWN APN+WiGig) |
|---|---|---|---|
| 確認する場所 | 現場に行って目視 | 現場事務所や近い拠点 | 遠隔拠点でも可(1,000km想定) |
| 映像の質 | 実物を直接見る | 回線の太さで画質が制約 | 4K映像と音声で0.2mmを確認 |
| 大きなデータ | 持ち帰って確認 | 時間がかかることが多い | 約20GBの3次元計測データを約1分 |
| 通信の安定性 | 該当なし | 現場の条件で変わりやすい | パケットロスなし、連続稼働を維持 |
| 主な負担 | 移動と危険な作業 | 画質とデータ量の制限 | 光ファイバ敷設と装置の設置 |
約20GBの3次元計測データは、15台のカメラに相当する映像監視データの通信を続けながら、坑内から現場事務所まで約1分で送れています。点群のような重いデータを待たずに確認できると、計測から判断までの間が短くなります。一方で、光ファイバの敷設と装置の設置は必要で、手軽さが増すわけではありません。この点は、導入するときの現実的なハードルになりそうです。
映像の画質ももちろん大事ですが、映像が途切れないことの方が重要だと私は思います。途切れた映像では、現場の判断を任せられないからです。
4. シュナちゃんのコーナー🐾
- Q. IOWN APNって、結局なにがすごいの?
A. ひとことで言うと、遠くまで映像やデータを届けても、遅れや揺らぎが少ない通信の仕組みなんだワン!今回は、パケットロスなしで連続稼働したと発表されているワン。 - Q. AIがひびを見つけてくれるなら、人はいらなくなるワン?
A. そこは慎重に見たいワン。今回わかったのは、AIでひび割れを検出できたことまでだワン。最後に判断するのは人、という形が合いそうだと僕は思うワン。
5. 今後どう向き合うか:インフラDXの次の一歩
3社は今後、IOWN APNの実環境を使った運用トライアルや、複数のトンネル現場での遠隔監視・遠隔検査を進めるとしています。AIによる遠隔解析や、施工現場へのリアルタイムなフィードバックも検証する予定です。光ファイバ設備を使ったリモートモニタリングも、あわせて検証されます。
私は、この流れが進むと、現場の仕事は「見に行く人」と「判断する人」に分かれていくのではないかと考えています。熟練者の目を複数の現場で共有できれば、人手不足の対策になり、危険な場所に入る回数も減らせるはずです。
読者の立場でできることは、自分の仕事で「その場にいないと見られないもの」を洗い出してみることです。私が思い浮かべるのは、住宅の床下や天井裏の点検、配線作業です。映像やデータの重さが理由で諦めていた作業があれば、通信が変わったときの選択肢として頭の隅に置いておくと、次の話題が入ってきたときに判断しやすくなります。
関連リンク
編集後記
数年以内には、こうした遠隔点検が現場で当たり前になる。今回の実証を読んで、まずそう感じました。同じような技術がたどってきた歩みを思うと、そう遠い話ではなさそうです。周りに話せば、すごいと驚かれるはずです。いちばんのネックは、やはり導入の費用でしょうか。広がるとすれば、最初はインフラの点検からだと見ています。


